【創業支援コラム】20150719 役員報酬の決まりごと
会社を設立して、社長や役員の方が「役員報酬をいくらもらうか」は、大きな悩みごとです。特に、業績が不安定なときは、慎重な扱いが必要です。
今回は、金額を増減する際の注意点や、税務調査で指摘されることが多いことを書いてみたいと思います。
1.役員報酬の決まりごと
まずは、「役員報酬」の原則を確認しましょう。
役員へ支払う金銭などが、「役員報酬」として損金算入(法人税を計算する際の経費として控除すること)を認められる要件は、3つです。
一つ目は、「定期同額給与」。
二つ目は、「事前確定届出給与」。
三つめは「利益連動給与」です。
このいずれかの要件を満たす必要があります。
「定期同額」とは、「役員報酬は毎月同じ額を支払い、会計処理しなくてはならない」という意味です。分解すると以下のようになります。
定期同額給与とは 支給する時期・・・1か月以下の、一定期間ごとに
支給する額・・・・毎回、同じ額
「役員報酬」の額は、決算日後に開催する定時株主総会など、毎年所定の時期に翌期の改定を行います。ただし、会計期間開始の日から3か月を経過する日までが期限とされています。
例えば、役員報酬の支給日を毎月末とする3月決算法人が、6月25日開催の定時株主総会において、報酬額を50万円から70万円に増額する決議を行い、総会直後の6月30日または翌月の7月31日(定時株主総会の開催日6月25日から開始する翌職務執行期間に係る最初の給与の支給時期を、 定時株主総会直後に到来する6月30日ではなく、その翌月の7月31日であるとする定めも一般的と考えられます。)から支給する場合は、増額後の70万円全額が損金として認められます。
それを過ぎると、前期と比べて増額(減額)した分は「役員賞与」とみなされ、損金として認められなくなってしまいます。
2.社長と役員のボーナスを損金算入する方法
「役員報酬」の決まりごとを確認しましたが、この「役員報酬」以外に、臨時的に供与される役員への報酬(金銭その他)は、原則として「役員賞与」とみなされ、損金算入できません。
そのため「社長と役員はボーナスをもらわない」とされている会社も少なくありません。
ところが、役員へのボーナスはちょっとした手続きさえ踏めば、「役員報酬」として会社の経費と認められ、税金の計算でも損金に算入することができるのです。それが、「事前確定届出給与」です。
これは、あらかじめ支払する際の「日付」と「金額」を確定し、事前に税務署へ届け出たうえで、その通り実行すれば、損金として認められるというものです。
例えば、前期より引き続き当期の業績も上向いているときに、すでに決定済みの「役員報酬」に上乗せして、「6月25日と12月25日に、100万円ずつの報酬を支払う」などとすることが可能になります。
ただし、事前の届出と支払内容が違うと「役員賞与」とみなされ損金算入が認められなくなってしまいますのでご注意ください。
また、この届出の有無にかかわらず、役員報酬は当期の売上や利益の予測・資金繰り状況などを考えて、適正な額を設定しておきましょう。
また、税務調査では「この分は役員個人への利益供与にあたる」と指摘され、役員報酬を否認(つまり損金算入できない)されてしまうケースが多くあります。
不当に高い報酬や役員個人が負担するべき支出を会社の交際費として処理した場合や、会社の資産を時価よりも安く役員へ譲渡した場合など、「役員賞与」とみなされる可能性が高いのです。
そうなれば法人税の追徴課税が発生し、悪質とみなされた場合は重加算税の対象にもなります。
利益供与を受けたとされた役員にも、追加で所得税が発生してしまいます。
では、「事前確定届出給与」の「事前」とはいつでしょうか?
次の(1)、(2)のうちどちらか早い方が届出期限になります。
(1)役員の職務について定める定時株主総会等の決議日から、1か月を経過する日
(2)会計期間の開始日から、4か月を経過する日
ですので、3月決算で、5月28日に株主総会を開催する場合は・・・(1)6月28日と(2)7月31日の早い方、6月28日が届出期限となります。
3.役員報酬のカットと損金算入
定期同額といっても役員報酬の額を期中で変更することも実は可能です。
会社の儲けが不安定なときは、まず役員報酬を増額または減額して、会社の利益を調整したくなるものです。
ここで問題となるのは「役員報酬は定期同額給与が条件だから、期中で変更してしまうと全額が損金不算入になるのではないか」という点です。
その場合は必ず臨時株主総会を開き、変更した旨を議事録に記録しておきましょう。
こうすることで、「役員賞与」とみなされて損金不算入となる報酬部分は少なく抑えられます。
では、期中に増額又は減額するとどうなるでしょう。
(1)株主総会での決定金額月50万円を期中に月70万円に増額した場合・・・これから支払う月20万円(増額分)が役員賞与となり損金算入できません。
(2)株主総会での決定金額月50万円を期中に月30万円に減額した場合・・・支払い済みの月20万円分(減額分)が役員賞与となり損金算入できません。
また、経営状況(業績)が著しく悪化したことを事由とする減額については、変更後も全額が損金として認められます。
ただし、経営状況(業績)の著しい悪化について税務調査の際に、調査官と会社との間で見解の相違が発生することがあることも留意しておきましょう。
では、やむを得ず減額せざるを得ない事情とはどんな場合でしょう。
(1)財務諸表の数値が相当程度悪化した。
(2)倒産の危機に瀕している。
(3)経営悪化により、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与を減額しなければならなくなった。
ことなどが該当します。
一時的な資金繰りの都合、あるいは単に予算を達成できなかったといった理由は、やむを得ない事情には含まれません。
4.対策
役員報酬の額の期中変更にあたっては、役員報酬の枠を定款または株主総会で決定しておくことが必要です。
役員報酬の定款記載は通常行わないため、単年度ごとに株主総会で支給額を決定する方法のほか、株主総会で支給限度額を決定し取締役会決議で支給額を決定する方法が実務では採られています。
限度額を決めておけば、その枠の範囲内で役員報酬の額を取締役会で決められるため、役員報酬の額の変更のたびに株主総会を開く必要はありません。
さらに、不安定な業績を見越して役員報酬を低く設定したものの、売上は順調で、今の役員報酬だけでは生活費が不足するような場合にはどうすればいいでしょうか。
その場合は、役員報酬を増額するのではなく、必要な額を会社から「役員貸付金」として借りることもできます。
ただしその場合は、金銭消費貸借契約書を作成し、取締役会の承認を受ける必要がありますし、一定の利率による利息を支払わないと、支払わなかった利息は給与として課税されます。
反対に、資金繰りの悪化から役員報酬を支払えなくなった場合は、数か月分であれば報酬額をカットするのではなく、未払役員報酬としても定期同額給与と認められるでしょう。
以上、いろいろ書いてみましたが、役員報酬には他にも細々とした決まりごとがたくさんありますので、一つ一つ顧問税理士と確認して決めていくと良いと思います。